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第六回空間賞受賞記念シンポジウム
コムデギャルソンの空間デザイン/川久保玲の所作

 ファッションデザイナーである川久保玲は、自らのショップ空間に独自の表現を生み出してきた。
その4 0 年間の絶えざる生成= コムデギャルソンの空間デザインが第六回空間賞に選定された。
ファッション- 空間デザインに通底する川久保玲の表現の所作について、若い世代の建築家達が語る。

日 時 2012年11月9日(金) 15:00~17:00※終了しました
会 場 IPEC(INTERIOR PRO EX CO)2012特別シンポジウム
工学院大学アーバンテックホール(アクセスマップはこちら
定員 250 名( 事前申込による先着順) 入場無料
パネリスト

浅子佳英
インテリアデザイナー • 建築家

中山英之
建築家

藤原徹平
建築家
ナビゲーター
飯島直樹
工学院大学建築デザイン学科教授
主催 一般社団法人日本インテリアプランナー協会(JIPA)
共催 学校法人工学院大学建築学部
企画 空間デザイン機構
一般社団法人日本空間デザイン協会
社団法人日本商環境設計家協会
公益社団法人日本サインデザイン協会
一般社団法人日本ディスプレイ業団体連合会
その他 ポスター(PDFファイル417KB)

summary

飯島直樹第六回空間賞を川久保玲さんが受賞されたことを記念して「コムデギャルソンの空間デザイン」というテーマでシンポジウムを行います。今回はこのテーマについて日本で一番研究されているインテリアデザイナー・建築家の浅子佳英さんをお呼びしました。浅子さんは『思想地図β』という思想雑誌で「コムデギャルソンのインテリアデザイン」という論文を発表しています。本日はその内容をもとに、浅子さんにコムデギャルソンの空間デザインについて講演をしていただき、その後、建築家の中山英之さんと藤原徹平さんをまじえてパネルディスカッションを行いたいと思います。

4つに分類されるショップデザイン

浅子佳英コムデギャルソンのインテリデザインを「規制」というものに注目して、見ていきたいと思います。段階的にショップのデザインの形が変わっていくのですが、大きく4つに分類しています。
 一番最初がコンテンツ型です。これは百貨店の規制によって生成されるデザインです。
 その次がプラットフォーム型です。百貨店の中の規制によって生成されたものを規制のないところに持っていた場合にどうなるかについて見ていきたいと思います。
 その次はマーケット型。完成形としてのデザインを放棄して、場の設計そのものに向かっていきます。
 最後はグラミンフォン型です。最終的には規制によって生成されるデザインではなく、規制そのものをデザインするようになっていきます。

規制から生まれたデザイン

 まずはコンテンツ型について見ていきたいと思います。百貨店には内装規制という独自のルールがあります。例えば、高さによる規制では、百貨店では一番奥にある壁際にある壁(へき)と呼ばれるところが一番規制が緩く、中央のエスカレーター周辺の島(しま)と呼ばれるところは規制が厳しい。島ではほかの店舗が見えなくなってしまうので、高さをできるだけ抑えなければならないわけです。壁周辺は規制が緩いはずなのですが、結果的にほとんどのお店が似通って、世界中で同じようなデザインのお店ができています。
 それに対して、コムデギャルソンは壁際ではなく、島の部分に展開することが多いのですが、百貨店ごとに柱の位置やエスカレーターの場所が全部違うことによって、結果的に全て違うデザインになっています。コムデギャルソンの特徴は同じデザインの店がひとつもないということです。
 コムデギャルソンの店舗は、柱のまわりにストックルームやフィッティングルームを、非常に効率よく、無駄ないように集約しています。床にモルタルを敷いて、スチールのパネルをパタパタと組み立てるだけで工事が終わるようなつくり方をしています。

新たなプラットフォームへ

 2000年にそごうが倒産して、セゾングループも解体し、百貨店の経営が厳しくなってきます。コムデギャルソンも自分たちのイメージを発表するための新たなプラットフォームをつくらなければならなくなくなります。そこで、百貨店の規制によってつくられたものを規制のない場所にもっていくわけです。
 フューチャーシステムズがデザインした青山本店では、ストックルームやフィッティングルームのかたまりを店内にばらまいて、いろんなコーナーを分けています。コムデギャルソンは一つのブランドと言うよりも、複数のブランドが同居したようなお店なので、百貨店で試みたデザインが、自分たちの百貨店をつくるときに非常に有効なものとなっています。普通、ストックルームなどは奥に持ってくる。でも、それらを前面に持ってきて、しかも分散型に配置することによって、動き回れるスペースが増えています。本来制約を持たない場所に、百貨店で生成されたデザインを持ってくることによって、ほかとは全く違う非常に特徴的なデザインを生み出したわけです。

ほかのブランドを巻き込む

 その後、アバンギャルドな服を売る環境そのものが厳しくなっていき、自分たちだけではなくて、ほかのブランドを巻き込んだプラットフォームを設計しないといけない事態になっていきます。そこで生まれたのがマーケット型です。 これは完成形としてのデザインを放棄してしまって、場の設計そのものへと変化したものです。ロンドンのドーバーストリートマーケットでは仮設のトイレをフィッティングルームの代わりにしたり、単管足場を使ったり、舞台のデザインをするような人にパネルをつくってもらったりと、かなりバラバラでカオスなデザインになっています。また、コムデギャルソンだけではなく、ほかのブランドのさまざな時代の服が置かれています。実験的な服をつくっている人たちが売ることができる環境をつくったわけです。

ルールそのものを設計する

 さらにアバンギャルドな服が売れなくなっていきます。そこで生まれたのがグラミンフォン型です。ここではルールそのものをデザインして、今までブランドショップがあまりなかった地域にゲリラストアを出店しました。
 コムデギャルソンっぽいデザインですが、コムデギャルソンがデザインしたわけではありません。それぞれの店舗はその地域の人たちがデザインをしていて、お店の経営も彼らがやっています。コムデギャルソンはお店を出すに当たってのルールだけをつくったわけです。
 そのルールは、お店のオープンを1年以内に限ることや、お店のデザインは既存の空間を優先させてあまり大きく変えてはいけないこと。また、場所も大事なので、立地も考えて選ぶこと。さらには、新しいものも古いものもほかのブランドも含めてごちゃまぜにして売ることなどです。
 将来的な顧客をつくるために、自分たちでデザインをせずに、彼らが独自に発信していけるようなルールの設計をしたわけです。

つくることと選ぶこと

中山英之コムデギャルソンのデザインが面白いのは、コードに従っているように見えながら、そこから示されるビジョンが世界のルールチェンジを宣言しているようなところにあると思います。百貨店の中の場合は空間的なレベルにとどまっているけれども、路面店に飛び出していったときに、材料のレベルでそれが起こっている。
 川久保さんはつくることと選ぶことの差があまりないと思うのですが、新しいデザインのジャンルとして、工業化された世界の中での新しいアノニマス化のようなものを選んだんだと思います。ただ選んだだけなんだけれども、それがつくることにつながってしまっているところが面白い。

誰もやらなかったつくり方や仕上げ

藤原徹平規制に対する川久保さんの態度が全く受け身ではないことが不思議なんです。普通は規制に対して、受動的な部分をどうやって能動的に変えるかということを考えるわけですが、川久保さんは規制に対してものすごく前向きに見えます。また、百貨店の空間をつくるときに、工期が短いということはものすごく重要なことだと思いますが、人件費や内装費をどう下げるかということに対してもまったく妥協していない。
 川久保さんがやるまでは誰もやらなかったつくり方や仕上げを選んで組み立てていることが本当にすごいと思います。テクスチャーを選ぶセンスがすさまじくいいんですよね。普段目にしているものを使っているのに、見たことがない空間をつくり出すわけですから。コムデギャルソンの空間デザインは2000年以降の建築に大きな影響を与えていると感じました。