建築学部開設記念レクチャーシリーズ

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建築学部開設記念 レクチャーシリーズ 2
No.5 ノーバート・レヒナー氏 講演会
「温暖化世界における建築の未来」

 工学院大学では、今年4月の「建築学部」開設を記念し、当学部の幅広い教育研究領域を代表する気鋭のプロフェッショナルを外部から迎え、多くの方々にお楽しみいただけるレクチャーシリーズを開催しています。
 10月よりそのシリーズ2として3回のレクチャーを予定しております。その第一弾は、建築環境工学の世界的権威、ノーバート・レヒナー博士をお招きします。

第5回建築学部開設記念レクチャーシリーズ ノーバート・レヒナー
開催日時

2011年10月28日(水) 18:00~20:00※終了しました

会場 工学院大学新宿キャンパス5FA0542教室(アクセスマップはこちら
講演テーマ 「温暖化世界における建築の未来」
The Future of Architecture in a Warming World
講演者
ノーバート・レヒナー

Norbert Lechner

Norbert Lechner

-プロフィール -

オーバーン大学(米国アラバマ州)教授。世界的に有名な建築系学生のための教科書「Heating,Cooling, Lighting: Design Methods for Architect, John Wiley & Son」の著者。建築環境工学の基礎理論を建築デザインの視点から、大変わかりやすく記述した教科書で、アメリカの建築系の大学の約1/3で使用されているばかりでなく世界中の大学でも広く用いられている。レヒナー教授はオーバーン大学建築学部で33年間にわたり建築教育に携わるとともにタイ、インド、韓国、中国、アラブ首長国連邦、イラン、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどアジア諸国においても講演・ワークショップを行っている。

ナビゲーター
宇田川 光弘

Mitsuhiro Udagawa(工学院大学建築学部建築学科教授)

お問合せ先
工学院大学 建築学部開設記念講演会事務局
電話番号:03-3340-0140
メール:infokenchiku●cc.kogakuin.ac.jp(●を@に直して送信してください)

summary

加速する地球温暖化

 地球の温暖化が、全世界的な問題になっている。温暖化が起こっているかどうかは、もはや問題ではなく、どれだけ深刻なのかということが現在の問題だ。地球の温暖化の進行の具合については、さまざまな説があるが、最も恐れているのは、途中で急激に変化をする可能性があること。その原因のひとつとして、雪や氷は約90%の太陽エネルギーを反射するが、地面や水は10%程度しか反射しないということがある。氷が溶けると太陽エネルギーの反射率が激減するため、どんどん加速していくと考えられる。
 この問題を解決するのに、100~200年という時間があるわけではない。すぐに対処法を考えなくてはならない。今、我々にできることは最悪のケースを考えることだ。それは75mの海面上昇が想定されている。我々が今やっていることは、地球に対してロシアンルーレットをやっているのと同じだ。最悪なケースにはならないと考えながら、続けてしまっている、そういう状況なのである。

環境への影響=人口× 裕福さ× テクノロジー

 「I (環境への影響)=P(人口)・A(裕福さ)・T(テクノロジー)」という式がある。これはアメリカの研究者が40 年前につくった、環境への影響を定式化したものだ。現在、地球は70 億人ほどの人口がいるが、今後、さらに増えていくと考えられる。単にそれは人の数だけの問題ではなく、その人たちがどう生活していくかが環境への影響につながる。つまり、生活する上でどれだけエネルギーを使うかということが問題になってくる。もし、世界中の人が日本人やアメリカ人と同じように生活しようとすると、地球3~4個分の環境資源が必要になる。その問題を解決するためにも、建築についてもっと考えなければならない。なぜなら、建築がエネルギー消費の半分を占めているからだ。建築自体を変えていかない限り、温暖化の最悪の結果を防ぐことはできない。
 建築の中で使われているエネルギーとして、暖房、冷房、照明がある。この3つは建築の中で消費されているエネルギーのほとんどを占めている。それらは非常に大きく太陽の影響を受けている。よって、省エネのサステイナブルな建築をつくっていくためには、太陽のエネルギーをうまく利用する方法以外はない。

最も重要な建物の配置

 太陽エネルギーをうまく利用できるデザインとはどのようなものか。非常に簡単で安価にできることから説明すると、最も基礎的で一番重要な手法が、建物の配置だ。南北面のファサードに窓が多く、東西面の窓が小さいことが最も目指すべき配置方法である。
 コロラド州にある「Zero Energy Office Building NREL」は、わたしが知る限りで、世界で一番最初に実現されたエネルギーを使わないオフィスビルだ。この事例も、正しく建物が配置されなかったら実現できなかっただろう。この建物は2 つの棟があり、それぞれ、東西に並んでいる。東西を軸に並べてあるので、実際にこの建物の窓は南と北の面に付く。南向きの窓は、夏はあまり太陽のエネルギーを受けず、逆に冬になるとふんだんに太陽のエネルギーを受けることができる。もし、東西に窓があった場合、夏に太陽エネルギーを最も得て、冬はほとんど得られない。我々のほしい結果とは真逆の結果となってしまう。

日よけと雨戸は有効なツール

 日よけは非常に効果があるにもかかわらず、過小評価されている。全世界すべての文化圏の伝統的な建築で採用されている手法である。地域風土に合わせた建築をつくることは、とても大事だ。そして、ひさし、日よけをつけることは非常に効果がある。日よけは窓の内側で日よけをする場合と、窓の外側で日よけをする場合があるが、内側の日よけに対して、外側に日よけを付けた方が4倍の効果がある。
 日本人が古来から培ってきた知恵の中で、非常に感心するのが、雨戸だ。雨戸は東西の窓の日射を遮るために非常に有効なツールとなる。雨戸が非常に有効であるという理由のひとつは、それが可動すること。建築をとりまく環境は常に動的に変化している。朝夜、季節、いろんな要因で変化する動的な環境に対して、固定された手法でどれだけ対処できるだろうか。例えば、可動式ルーバーを使えば、いろんな状況に対応できる。

パッシブ暖房は組み合わせて調節

 太陽の熱を使った暖房方法を二つ紹介する。ひとつ目のパッシブ暖房の手法は、ダイレクトゲインと呼ばれるもので、単に窓を通じて入ってきた熱がそのまま、部屋を暖めるという方法だ。これは、非常に簡単でタダでできる方法で、南に向いている窓があれば、それだけで実現できる。東西に付けようとしていた窓を南にもってくるだけで、エネルギーの効率が非常に大きく改善される。
 二つ目の手法はフランスのエンジニアによって開発されたトロンプ壁と呼ばれる手法だ。ガラスと熱容量の大きな壁を組み合わることで、ガラスを抜けて入ってきた日射が、すぐ内側にある熱容量の大きいコンクリートやレンガなどの壁をあたためて蓄熱するのである。南に面したファサードが全部ガラス張りだったら、光が入りすぎてまぶしくなってしまうため、トロンプ壁とダイレクトゲインをうまく組み合わせることで、光と熱の取り入れたいバランスを調節することができる。

ライトシェルフは画期的な発明

 普通のオフィスでは建物のエネルギーの約40%が照明に使われている。蛍光灯は非常に効率が良いと言われているが、この器具の消費する使用電力度の25%しか光にかかわっていない。残りの75%が実は熱になっているので、照明器具と言うよりもヒーターと言った方がいい。昼光、太陽の光を利用すると言うことは非常に大きなエネルギーを削減するという可能性をもっているのである。
 ライトシェルフは非常に画期的な発明だ。ライトシェルフには二つの効果がある。ライトシェルフよりも下の窓には陰をつくり、上側からは反射光を取り入れることができる。ライトシェルフはサステイナブルな建築をつくる上で、非常に重要な役割を持つ手法だ。

アクティブソーラーは最後の手段

 アクティブな太陽光利用の例としては、太陽熱温水器や太陽光発電がある。これらの方法は非常に効果的だが、お金がかかり、元を取るのに時間がかかる。エネルギーを取りだすということよりも、そもそも使うエネルギーを減らすことの方がよっぽど効果がある。ゼロエネルギービルは太陽電池からエネルギーを獲得しているが、すべての面に太陽パネルを張ったとしても、普通の建物が消費するエネルギーをまかなうことはできない。ゼロエネルギービルは一般的なビルと比べて80%近くも使用エネルギーを減らし、残りの20%を発電でまかなっている。使う分を減らして、太陽電池パネルを設置できるスペースを確保することで、はじめて実現できる。太陽電池を否定するわけではないが、やはりほかにすべきことをちゃんとした上で最後に使うべきだと思っている。

三段階に分けて考える

 サステイナブルな建築を設計する上で考えなければいけないことは三段階がある。最初が建物の設計、デザイン。これで、大幅にエネルギーを削減することができる。第二段階が、パッシブ手法といわれるものだ。これはあくまで建築で解決しているものであって、建物の一部。設備ではなく、あくまで建築の解決手法だ。この第一段階、第二段階をきちんと実現することで、それだけで80%のエネルギーを削減することができる。実際に、設備は20%だけをまかなえれば十分。100%を設備で解決する必要はまったくない。第三段階として、非常に効率の良い機器を使うことによって、さらに5%エネルギーを削減することができる。
 この三つを実現することによって、一般的な建物で必要なエネルギーの15%もあれば、建物として運用できる。その15%のエネルギーを、太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギーでまかなえばよい。